Essay

「東京ノース」の片隅から

東京23区にある鉄道駅を全部眺めたうえで、コストパフォーマンスの良い駅を挙げてくれ、とAIに頼んでみた。表面的なイメージに引っ張られないよう、内部では全駅をレビューせよ、という面倒な注文まで付けた。

結果は、ほとんど城北と城東だった。練馬、王子、成増、板橋、赤羽、北千住、町屋、青砥。まあ、そうなる。東京で価格を評価軸に入れれば、南や西の有名住宅地は、良い悪い以前にすでに値札が立派すぎる。

ちょうど世間では「東京ノース」なる言葉が出回り始めているらしい。僕は2013年からずっと、いま東京ノースと呼ばれているあたりに生息している。別に先進地域を選んだつもりはなく、23区内で、台地の上で、価格が現実的な場所を探したら自然にこちら側へ来ただけだ。

それが十年以上たって、急に名前を付けられ、便利だ、住みやすい、若い人にも人気だと紹介され始めた。こちらとしては、自分が流行に乗ったというより、また世間が勝手にこっちへやってきた、という感じが強い。

もっとも、東京ノースの主役は北区と板橋区で、練馬は一応その端に引っ掛かる程度だ。城北の地味さと城西の住宅地感を半分ずつ持ち、西武線沿線という別の文化圏でもある。その中途半端さは、個人的には都合がいい。

僕は昔から、気に入ったものが後から妙に流行ることがある。iPhoneは普及するほどアプリも周辺機器も増えたのでよかった。ウイスキーは駄目だった。値段が上がり、品物が消え、静かに飲んでいた人間にはほとんど利益がない。東京ノースも、同じ方向へ行かなければいいのだがと思いながら眺めている。